中国経済クラブ(苅田知英理事長)は4月24日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。東京大先端科学技術研究センター(東京)の小泉悠准教授が「ウクライナ戦争を考える五つの視点 日本の安全保障」と題して話した。長期化するロシアのウクライナ侵攻は「規模を縮小しながら当面続く」と見通し、日本の役割にも触れた。要旨は次の通り。(鈴木大介)
侵攻から4年2カ月たった。ロシア優位の中で全体として膠着(こうちゃく)しているのが現状だ。ロシアのプーチン大統領はこの結果に満足しておらず、戦争をやめる気はない。このまま侵攻5年を迎えるだろう。
ここ3年ほどウクライナでのロシアの占領地域はほとんど変わっていない。当初のロシア軍の構想では、首都キーウを早期に占領し、ウクライナ全土を掌握しようと考えていたが、うまくいかなかった。一方のウクライナ軍も反転攻勢に失敗した。ただ、抵抗を続ける意思は固い。
プーチン大統領が侵攻を始めたのは、単に土地や資源が目的ではなくウクライナの政治的、軍事的支配を狙ったためだろう。目的が大きいほど戦争はエスカレートする。なかなか決着がつかない消耗戦と捉えている。
多くの命が失われている。軍人では、ロシア軍の戦死者は32万人に及ぶというデータがある。北方領土出身の戦死者も確認されている。ウクライナ軍は14万人に上る可能性もある。両軍とも重傷者はその何倍にも上る。
ロシア軍の戦死者を出身地別に分析すると、経済的に豊かではない地域が多い傾向にある。極東地域もその一つだ。モスクワやサンクトペテルブルクなど都市部の人はほとんど亡くなっていない。高額の報酬を目当てに地方から戦場へ赴いている。地方がロシア軍の人員供給源となっているのが実態だ。
ロシアは年々国防費を増やしている。ただ、高額な報酬を出しても兵士が集まりにくくなっている。この調子で戦争を続けるのは苦しく、大学生や中産階級に(徴兵)対象を広げる可能性がある。戦車も予備の車両が減っている。戦争は当面終わらないが、規模が縮小するとみている。
日本がこの戦争とどう向き合うか。ウクライナを支援せず、「中国の抑止に力を注ぐべきだ」との声もある。軍事力や国土の広さが一定にある大国であれば、それは一種の「リアリズム」かもしれない。
ただ、大国ではない日本なりのリアリズムを考える必要があるだろう。ミドルパワー(中堅国)の結集など対米追随ではなく、かつこれまでの発想にとらわれない独自のリアリズムで、新たな国際秩序を構築する必要がある。そのために真剣な議論が求められる。