中国経済クラブ(苅田知英理事長)は9月25日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジストが「為替相場見通し~トランプ関税、日米政治情勢の影響」と題して話した。今後は日米の金利差が縮小し、緩やかな円高が進むとの見通しを示した。要旨は次の通り。
2021年ごろまでは円安が輸出型企業の株価上昇につながり、日本経済にはプラスだとする見方が一般的だった。だが、その後は賃上げが追い付かないほどの物価上昇で、円安が良くないものという見方が広がった。
高金利でも成長が続いていた「米国1強」の状況は変わった。関税の引き上げで米国の輸入企業のコストは上がるが、近年ではインフレが進み、関税分のさらなる値上げは難しい。雇用や設備投資が減り、景気が悪化する局面に来ている。今月実施した利下げに続き、年内、そして来年も利下げがあるとみている。
米国の利下げと日本の利上げにより、今後は緩やかに円高が進行する。28年には1ドル=134円程度になると想定している。75~100円に達した昔のような超円高には戻りづらくなっている。輸出型企業の採算レートは127円程度。円高でも株価は最高値を更新しており、国内景気は崩れないだろう。
日銀は7月の金融政策決定会合で、利上げに慎重な姿勢を示した。ただトランプ関税に関しては、国内の経済成長率の見通しがそれほど下がっていない。10月1日発表の企業短期経済観測調査(短観)で企業の業況判断指数が改善し、関税の悪影響が限定的との見方が示された場合は、10月の決定会合で利上げになる可能性が高まる。現在の0・5%から数年かけて、景気を悪化も加速もさせない中立金利の1・5%に上げるのではないか。
自民党総裁選は当初、積極財政派の高市早苗氏の人気が高かったが、最近の世論調査では小泉進次郎氏と支持率が拮抗(きっこう)してきた。総裁選と首相指名後の物価高対策を見極めていく必要がある。
米国の自動車関税政策では、日本からの輸出時の税率は元の2・5%から15%になった。国内メーカーへの影響は無視できない。それでも大半の国に25%の追加関税が課される中、欧州や韓国とともに優遇されている。米国のメーカーも部品の輸入に25%の関税がかかり、コストが上がる。米国企業だけが有利になっているわけではない。
日本のメーカーは関税の影響を避けるため、米国向けの輸出価格を下げている。関税で輸出が減ること以上に、米国の消費者の自動車需要が減る懸念がある。米国経済がどの程度弱くなるのか。それが最大の焦点だ。